同性婚訴訟2

2024年3月14日、東京地裁(第二次訴訟)、札幌高裁の判決が言い渡されました。

東京地裁は予想の範囲内の内容でしたが、札幌高裁は予想を超える内容でした。

【東京地裁(第二次訴訟)判決】

争点とそれに対する判断は以下のとおりです。

【争点】

婚姻の対象を異性カップルに限定している民法・戸籍法の諸規定(本件諸規定)が、

  • 憲法24条1項に違反するか
  • 憲法14条1項に違反するか
  • 憲法24条2項に違反するか

争点となった憲法の規定は、以下のとおり。

第14条

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

第24条

  1. 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
  2. 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
【憲法24条1項に違反するか】

「両性」「夫婦」という文言、憲法の制定過程等からすると、憲法24条1項は同性婚を想定していない。

法律婚制度の対象は社会的承認を受けた人的結合関係が想定されており、現在において、国民の婚姻に対する意識の変化などの事情が認められるが、なお、同性カップルに対して異性カップルの婚姻と全く同一の婚姻に係る法制度を認めることに対する社会的承認が得られるに至ったとまでは認め難い。

したがって、本件諸規定は憲法24条1項に違反しない。

【憲法14条1項に違反するか】

憲法24条1項は同性婚のみを保障しており、それに基づき、同条2項は異性カップルの婚姻に係る法制度の立法を要請しているものといえること、同性カップルに対して異性カップルの婚姻と全く同一の婚姻に係る法制度を認めるか否かは慎重な検討を要する状況であることからすると、本件諸規定は憲法24条2項に要請に基づいて婚姻の主体を異性カップルに限定しているに過ぎない。

したがって、本件諸規定は、立法裁量を逸脱しているとはいえず、憲法14条1項に違反しない。

【憲法24条2項に違反するか】

本件諸規定により、同性カップルは、①婚姻したことにより得られる民法の適用や税・社会保障に係る優遇措置の適用等に伴う法律上の利益、②人的結合関係を社会的に公証されるという利益、医療機関においてパートナーの診察状況を当然に知ることができること等の事実上の利益といった、個人の尊厳に関わる重要な人格的利益を一切享受できない状況にある。また、自らの性自認・性的指向に即した生活を送ることは、重要な人格的利益に根ざしたかけがえのない権利である。

本件諸規定が、同性カップル等の婚姻を認めず、また、法律上、同性カップル等が婚姻による法的利益と同様の法的利益を享受したり、社会的に公証を受ける利益を享受したりするための制度が何ら設けられていないのは、同性カップル等が、自己の性自認及び性的指向に即した生活を送るという重要な人格的利益を、同性カップル等から剥奪するものにほかならないから、本件諸規定及び上述したような立法がされていない状況は、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理的な理由があるとは認められず、憲法24条2項に違反する状態にあるというべきである。

【本件規定を改廃しないことが国賠法上違法と評価されるか】

同性カップル等の婚姻等に係る法制度の在り方については、その時々の社会構造や国民の意識等の変化に対応する形で決せられるべきものであるところ、同性カップル等が婚姻による法的利益と同様の法的利益を享受したり、社会的に公証を受ける利益を享受したりするための制度の構築については、なお複数の選択肢があるといえ、そのような制度設計については、国会の立法裁量に委ねられているといえる。そうすると、本件諸規定が改廃されず、法律上、同性カップル等が婚姻による法的利益と同様の法的利益を享受したり、社会的に公証を受ける利益を享受したりするための制度が立法されていない状況が、現段階において直ちに憲法24条2項に違反するとまでいうことはできず、国賠法上違法であるともいえない。 

【意義】

憲法24条1項は異性婚のみを保障しているとしており、「本件諸規定が、同性カップル等の婚姻を認めず、また、法律上、同性カップル等が婚姻による法的利益と同様の法的利益を享受したり、社会的に公証を受ける利益を享受したりするための制度が何ら設けられていない」状況が憲法24条2項違反の状態であるとしており、「本件諸規定が同性カップル等の婚姻を認めない状況」を違憲状態としているわけではないので、同性婚を要請するものではないのでしょう。この点は、これまでの地裁判決と同じだと考えられます。

しかし、憲法24条1項は同性婚のみを保障しており、それに基づき、同条2項は異性カップルの婚姻に係る法制度の立法を要請しているとしながら、24条2項違反を認めるのは、理解しづらいところです。
東京地裁(第一次訴訟)と福岡地裁は、「婚姻」には同性婚を含まないとしつつ、24条2項の「家族」に関する事項を問題にしたため、24条2項違反を認めたのですが、東京地裁(第二次訴訟)は、「家族」に関する事項を問題にしているわけではなさそうだからです。

【札幌高裁判決】

札幌高裁判決は、これまでの地裁判決よりももっと踏み込んだ内容となっています。

争点とそれに対する判断は次のとおりです。

【争点】

民法・戸籍法の婚姻に関する諸規定(本件規定)が、

  • 憲法13条に違反するか
  • 憲法24条1項2項に違反するか
  • 憲法14条1項に違反するか
【憲法13条に違反するか】

性的指向・同性間の婚姻の自由に係る人格権の内容は一義的ではないこと等からすると、本件規定が憲法13条に違反すると認めることはできない。

【憲法24条1項2項に違反するか】

憲法24条は、その文言上、異性間の婚姻を定めており、制定当時も同性婚を想定していなかったと考えられる。しかし、憲法上の規定を含め、法令の解釈は、文言や表現のみでなくその目的をも踏まえて解釈されているし、仮に立法当時に想定されていなかったとしても、社会状況の変化に応じた解釈がされている。憲法24条についても、文言にとらわれず、個人の尊重がより明確に認識されるようになったことを背景として解釈すべきである。

性的指向及び同性間の婚姻の自由は、個人の尊重及びこれに係る重要な法的利益であるから、憲法24条1項は、人と人との間の自由な結びつきとしての婚姻をも定める趣旨を含むものであって、同性間の婚姻を異性間の婚姻と同じ程度に保障している

本件規定により、同性愛者は社会生活上の著しい不利益を受け、アイデンティティの喪失を抱くなど、個人の尊厳をなす人格が損なわれる事態となっている一方、①同性婚を認めた場合の不利益・弊害の発生はうかがわれず、②同性婚を可能とする国は多く、③国連自由権規約人権委員会は同性婚を享受できるよう指摘しており、④自治体によるパートナーシップ認定制度によっても同性婚ができないことによる不利益が解消されていない、という事情がある。

同性婚に反対する立場の意見として、次のような意見がある。

  1. 同性愛に対する違和感、これが高じた嫌悪感・偏見
  2. 生殖機能に相違がある男女間の婚姻についてのみ、次世代に向けての子の育成の観点から、社会的な制度保障をすることが相当であるとする意見

1については、感覚的・感情的な理由にとどまるとはいえ、啓蒙活動によって解消していく可能性がある。
2については、同性間で婚姻ができない不利益を解消する必要性を否定するほどの理由ではない。

したがって、本件規定は、少なくとも現時点で立法裁量を逸脱しており、憲法24条に違反する。

【憲法14条1項に違反するか】

24条に違反する理由と同じように、本件規定による性的指向に係る婚姻制度における取扱いの区別は、合理的な根拠を欠くものであり差別的取扱いであり、憲法14条1項に違反する。

【本件規定を改廃しないことが国賠法上違法と評価されるか】

国会には立法の裁量があるが、同性婚を許さない本件規定について、国会の議論や司法手続において憲法違反であることが明白になっていたとはいえない。同性婚立法の在り方には多種多様な方法が考えられ、設けるべき制度内容が一義的に明確であるとはいい難い。同性婚に対する法的保護に否定的な意見や価値観を有する国民も存在し、議論の過程を経る必要があることも否めない。そうすると、国会が正当な理由なく長期にわたって本件規定の改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない。
したがって、本件規定を改廃しないことが、国賠法上、違法であると認めることはできない。

【意義】

何と言っても、憲法24条1項違反を認めたことが画期的でしょう。

これまで、著名な憲法学者ですら、「「両性の合意」という文言からすると、憲法は同性愛者間の家庭生活を異性間のそれと同程度に配慮に値するものとは考えていないように思われる。」としていたところですし(※1)、大阪地裁、東京地裁(第一次、第二次訴訟)、福岡地裁の判決のように、同性婚が憲法24条1項によって保障されていると解するためには、それが社会的承認を得ている必要がある(が同性婚にはまだ社会的承認を得られていない)との考え方が根強いと思われる状況でした。

※1 長谷部恭男東大名誉教授

【24条1項の文言についての判断】

同性婚を保障していないとする見解は、憲法24条1項が「両性」「夫婦」という、異性婚を前提としていると思わせる文言を用いていることを根拠としています。

しかし、憲法の人権条項は第3章に規定されていますが、その章名(タイトル)は「国民の権利及び義務」とされており、各人権条項の主体も「国民」とされているものがあります。そのため、憲法の人権条項は国民=日本国籍を有する個人(自然人)にのみ適用されそうです。それにもかかわらず、判例も学説も、人権条項は、「国民」ではない外国人や法人にも(性質上可能な限り)適用があると解釈してきました。上記文言は、憲法上の権利が国民に保障されることを意味するだけで、外国人や法人に保障されないことを意味しない、というわけです。札幌高裁は、24条1項もそれと同じように解釈すれば良いとしました。
この札幌高裁を受けて、今後は、なぜ24条1項だけ、文言に厳格に拘らなければならないのか、が問われるでしょう。

【社会的承認】

「社会的承認」の理屈については、今回の札幌高裁判決は、そこまでは要求しなくて良いと考えたようです。
同性婚が保障されているかどうかは、国の伝統や国民感情も考慮要素にはなるが(※2)、まず「個人の尊厳」(憲法24条2項)の観点から考えるべきであるし、憲法制定時より個人の尊厳がより明確に認識されていることも考えると、現在では、同性カップルが婚姻できない状況はその尊厳を損ねていると解されるに至っている、という理屈なのでしょう。
非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1としていた旧民法900条4号但書前段を14条1項に反するとした最高裁決定(2013.9.4)を想起させます(※3)。

※2 ただし、札幌高裁は、同性婚に反対する意見には「同性愛に対する違和感、これが高じた嫌悪感、偏見」もあり、「同性婚に対する否定的な意見や価値観を有する国民もいる。もっとも、これらは、感情的な理由にとどまるものであったり、異性婚との区別について合理的な説明がされていなかったりするものである。」としており、24条違反だけでなく14条違反も認めています。これまで、判例や学説は、区別に合理的根拠がない場合を差別的取扱いとして14条1項に違反するとし、「差別」を広く捉えてきました。そのため、偏見・嫌悪感・蔑視等を理由とする狭義の「差別」の存在が埋もれている感がありました。札幌高裁は、同性婚を認めないことを狭義の「差別」であると考えているのかもしれません。
※3 曰く、「法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化(家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたこと)に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。」
もっとも、個人の尊重に対する国民の意識や認識を憲法判断の根拠とすることには批判があります。

【何を違憲としたか

これまでの地裁判決は、同性カップルが法律婚の効果・利益を全く享受できない状況を違憲(状態)としていました。その理屈からすると、同性婚が要請されるものではなく、パートナーシップ制度であってもその内容次第では違憲ではなくなることになります。

しかし、今回の札幌高裁判決は、憲法24条が同性婚を異性婚と同程度に保障している、とするのですから、同性カップルが法律婚の効果・利益を全く享受できない状況ではなく、本件規定が同性婚を認めないことを違憲としているのでしょう。パートナーシップ制度では足りず、同性婚を要請していることになります。【同性婚認めず 違憲!】と理解してよいのは、この札幌高裁が初めてだと思います。日本国憲法が制定されてから、最もインパクトの大きい違憲判決かもしれません。

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