親子法制の改正~嫡出推定・再婚禁止期間

2022(令和4)年12月、民法の親子に関する部分について、大きな改正がありました。

懲戒権に関する部分については改正法の公布日(同年16日)に施行されましたが、それ以外は、2024(令和6年)年4月1日に施行されます。

以下の嫡出推定の規定は、2024年4月1日以降に生まれた子に適用されます。

 

【改正の経緯】

主に無戸籍者問題を解消する観点から、以下のような改正がされました。
無戸籍者問題とは、出生届がなされないために戸籍に記載されない子が存在するという問題です。

従前の嫡出(ちゃくしゅつ)推定制度では、婚姻の解消等(離婚や死別(失踪宣告含む)による解消と婚姻取消しの意。以下は離婚に代表させます)から300日以内に生まれた子は一律に前夫の子と推定され、出生届をすると戸籍上その子が前夫の子と記載されることとなっていました。このことが、離婚等の後300日以内に前夫以外の者との間の子を出生した女性が出生届を提出しない一因であると指摘されていました(いわゆる「離婚後300日問題」)。

法務省の調査では、無国籍者は2022年12月時点で777名であったようですが、戸籍に記載されていない理由のうち、「嫡出推定規定により、その子が(前)夫の子と扱われることを避けるため」が約73%であったとのことです(※1)。

 

※1 調査結果の原典が見当たりませんでしたが、この73%には、離婚後300日以内に前夫以外の者の子を出産したケース(300日問題のケース)だけでなく、離婚成立前に夫以外の者との子を出産したケース、更には、(前)夫の子であるが、DVなどの理由により(前)夫に出産を知られたくないケースなどが含まれている可能性があります。

 

【嫡出推定規定の改正内容】

上記のとおり、改正前は、離婚後300日以内に生まれた子は、一律に前夫の子と推定されるとされていました(改正前722条)。

 

改正前722条の規定は以下のとおりです。

  1. 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
  2. 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

 

出典 法務省のリーフレット(https://www.moj.go.jp/content/001413654.pdf

 

今回の改正では、離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定する規定は維持されながら、再婚後に子が生まれた場合は、再婚後の夫の子と推定されることとなりました。

改正後722条の規定は以下のとおりです。

  1. 妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
  2. 前項の場合において、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定し、婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
  3. 第1項の場合において、女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に2以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。
  4. 前3項の規定により父が定められた子について、第774条の規定によりその父の嫡出であることが否認された場合における前項の規定の適用については、同項中「直近の婚姻」とあるのは、「直近の婚姻(第774条の規定により子がその嫡出であることが否認された夫との間の婚姻を除く。)」とする。

 

出典 法務省のリーフレット(https://www.moj.go.jp/content/001413654.pdf

 

大変ややこしいので、以上の規律を箇条書きにすると、以下のとおりです。

  1. 妻が婚姻中に懐胎した子はその婚姻の夫の子と推定する(1項前段)。
  2. 婚姻前に懐胎し、婚姻後に生まれた子は、夫の子と推定する(1項後段)。
  3. 婚姻成立から200日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定する(2項)。
  4. 婚姻成立から200日を経過した後に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する(2項)。
  5. 離婚から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する(2項)。
  6. 女性が子の懐胎時から子の出生時までの間に2回以上婚姻をしていたとき(1~5により父と推定される者が2人以上いるとき)は、その子は、その出生の直近の婚姻における夫(推定される中で最も遅く結婚した者)の子と推定する(3項)。
  7. 嫡出否認された者に6は適用されない。

改正後も、①離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定されるというルール(5→1)は維持されましたが、②婚姻後200日以内に生まれた子は婚姻後の夫の子と推定されるというルール(3→2)が追加されました(※2)。そして、③前夫の子であるとの推定(5→1)と再婚後の夫の子であるとの推定(3→2又は4→1)が重複する場合(つまり、離婚後300日以内に、再婚・出産したケース)については、再婚後の夫の子であるとの推定が優先することとなりました(6)。

※2 改正前は、婚姻前に懐胎した子や婚姻後200日以内に生まれた子についての推定規定がありませんでした。しかし、婚姻後200日以内に生まれた子のうち、約99.5%が夫婦の子として戸籍に記載されており、このような子は「推定されない嫡出子」と称されていました。このような実態を踏まえ、改正法では、子の身分関係の安定のため、婚姻から200日以内に生まれた子は婚姻前に懐胎したものと推定した上、婚姻前に懐胎した子が婚姻後に生まれた場合は夫の子と推定する規定が新設されました。これにより、婚姻後200日以内であろうがその後であろうが、婚姻中に生まれた子はその婚姻の夫の子と推定されることになります。

このように、子の出生が離婚後300日以内であっても、その時点で再婚をしていれば、子は再婚後の夫の子と推定されることから、その限度で離婚後300日問題は解消されます。

これに対し、再婚をしていなければ、改正前と同様、離婚後300日以内に出生した場合は、前夫の子と推定され、戸籍には前夫の子と記載されることに注意が必要です。

ただし、改正前と同様、離婚時に懐胎していない旨の医師の証明書を添付すれば、前夫の子でない出生届を提出することができる見込みです。

 

【再婚禁止規定の改正】

嫡出推定規定の改正に伴い、女性の再婚禁止期間の定め(改正前733条)は廃止されました。

改正前は、①離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定されるというルールと②婚姻から200日経過後に生まれた子は夫の子と推定されるというルールの重複(嫡出推定の重複)を避けるため、原則として離婚後100日以内の再婚が禁止されていました(※3)。

※3 民法制定時は再婚禁止期間が6ヶ月とされていましたが、2015年に最高裁が100日を超える期間の禁止を違憲としたため、翌年の改正により、再婚禁止期間が100日と短縮され、離婚時に懐妊していない旨の医師の証明書があれば再婚禁止規定が適用されない(婚姻届が受理される)こととなりました。

例えば離婚の日に再婚すると、離婚・再婚してから201~300日以内に子が生まれれば、嫡出推定が重複して父が定まらなくなため、再婚は認められなかったわけです。

 

今回の改正により、子の出生が離婚後300日以内であっても、その時点で再婚をしていれば、子は再婚後の夫の子と推定されるという形で嫡出推定のルールが整備されたため、嫡出推定の重複防止という再婚禁止期間の必要性が消滅した、ということになります。

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