予約か問い合わせか

最近、飲食店などでの無断キャンセルが大きな問題となっています。

これとは異なり、そもそも「無断キャンセル」なのか、つまり、キャンセルは予約が成立していることを前提としますが、単に問い合わせがされただけであって、予約が成立していないのではないか、と疑問に思われるケースもあるようです。

【予約とは】

前提として、「予約」について説明が必要と思います。

【予約→契約】

もしかすると「予約」は正式な契約ではないと理解している方もおられるかもしれません。

しかし、実際の取引では、「予約」といっても、客側が、将来、店側にやサービスの提供等を求める「申込み」をし、店側がこれを「承諾」することによって契約が成立していることも多くあります。
例えば、ホテルの予約は、○月○日から△月△日まで宿泊したいという客側の申込みとホテル側の承諾により契約が成立することを意味し、ホテルは予約期間に部屋を確保しておく必要があります。当日ホテルにチェックインする際に契約が成立するわけではありません。
アマゾンでは、まだ発売されていない商品が「予約中」と記されていますが、注文が確定すると売買契約が成立します。発売日以降に改めて注文しなくても、発売日頃に商品が発送され、代金が決済されます。

【民法上の予約】

上記とは異なり、民法では、「予約」とは、本契約を成立させることを予定する合意(一種の契約)とされており、予約の時点では本契約は成立していません。
一方の予約完結権(契約を成立させる権利)の行使などのプロセスを経て本契約が成立します(民法556条)。

この場合、予約完結権を持たない側は、本契約が成立するかどうか不確定なのに、債務の履行のために準備をすることを求められます。
ホテルの例でいえば、ホテル側は、実際に宿泊契約が成立するかどうか分からないのに、客側が希望する日程に合わせて部屋を確保しておく必要があります。
実際に宿泊契約が成立しなければ、ホテルはその部屋を他の客に提供できなくなるという不利益(機会損失)を被ります。
そのため、日常的な取引における予約は、民法上の予約であることが明らかでない限り、正式な契約が成立していると解すべき場合が多いように思います。

【予約か問い合わせか】

実際の取引では、そもそも予約(契約)が成立したのか、それとも単なる問い合わせなのか、が不明確な場合もあります。

例えば、

客「12月28日午後7時から、人数は20~25人、チラシにある1人4000円プラス飲み放題のコースで予約可能でしょうか」

店「大丈夫です」

客「では、人数が決まったらまた連絡します」

店「お名前とご連絡先をお願いします」

客「○○、△△―□□―☆☆です」

店「では、ご連絡をお待ちしております」

という遣り取りがあったが、客から連絡がないので、12月27日に店が客に連絡すると「問い合わせただけで予約していない」と言われたとしましょう(最近のネットニュースを参考にしました)。

この場合、予約(契約)が成立しているでしょうか、それとも客の言うとおり単なる問い合わせでしょうか。

検討すべきポイントはいくつかありますが、大きくは次の2点でしょう。

  1. 人数が確定しないのに契約が成立するか
  2. この電話の時点では、客に契約を成立させる意思はなかったのではないか
【合意の対象】

契約が成立するためには、契約の重要部分または本質的部分について合意していることが必要とされています。1.はこれに関わります。

上記の例では、日時と料理は決まっています。
人数は未確定ですが、飲食店で20~25人ということであれば、店側も若干の余りを見込んで25人分の準備に着手することも可能でしょう。

客側にしても、人数が確定しないと予約できないのは逆に困るでしょう。
実際、人数については幅を持たせて予約することも往々にしてあります。予約後に人数を確定することもあるでしょうが、確定しないままのこともあるでしょう。

そのため、この程度の人数未確定は、契約成立の支障にはならないでしょう。

【合意の確定性・終局性】

問題は2.だと思います。

契約が成立するためには、申込みと承諾といった意思表示や(交渉の末の)合意が必要ですが、それらは確定的・終局的なものでなければならないとされています。

例えば、企業の求人広告は、企業からの雇用契約の「申込み」ではなく、申込みの「誘引」(誘う行為)であって、応募が申込みであり、採用するという回答が「承諾」だとされています。
応募者の選考があるので、求人広告は確定的な意思表示ではないとされるのです(もし求人広告が申込みだとすると、応募が承諾になり、応募によって雇用契約が成立してしまうからです)。

不動産売買契約などについても、交渉の末、契約の内容や条件がまとまったとしても、契約書作成まで契約は成立しないと解されています。
契約書作成によって確定的な合意がされて契約が成立する、あるいは、契約書作成までは契約を成立させない(契約を留保する)合意がある、ということです。

本事例の場合、問題は、客から確定的な申込みがあったと言えるか、ということになります。

【予約が成立するという考え】

①契約が成立したか、②成立した契約の内容はどのようなものか、という問題については、一般に、当事者の内心の意思(真意)で決めるのではなく、表示された意思を合理的に解釈して決めるとされています。
本事例では、客と店が内心どのように考えていたのか、ではなく、上記遣り取りを解釈するということです(※1)。

※1 ②の契約内容については、表示を合理的に解釈して決めるにしても、①の契約の成否、つまり、確定的な意思表示がされたかどうかについては、当事者の内心で決めるしかない、という考えもあるかもしれません。この考えによれば、実際に一方が契約を成立させる意思が確定的になかった以上は、契約は成立していないと解さざるを得ない、ということにもなります。しかし、契約を成立させる意思が確定的にあったかなかったかは事実認定の問題であり、その際には表示された内容が最も重要な証拠となるため、結局は、表示を合理的に解釈した場合と結論は変わらないでしょう。

最初の「予約可能でしょうか」については、「予約したいんですけど可能でしょうか」の意味だと解釈することは不可能ではありませんが、一応問い合わせだとしましょう。

しかし、店の「大丈夫です」を承けた客の「人数が決まったら連絡します」の言葉については、上記のとおり、本事例では人数の幅が決まっており、正確な人数が確定しないことは契約成立の支障にはならないので、契約を留保する意思の表れと解することはできないでしょう。
むしろ、通常、人数は未確定だが、逆に、それ以外の①予約すること、②日時、③料理は確定したということを前提として、店の便宜のために人数が確定したら伝えるというメッセージと解釈されるでしょう。

客とすれば、「他の店にすることも考えており、そちらに決めたら人数も含め連絡するつもりだった」と言いたいかも知れませんが、「人数が決まったら連絡する」をこのように解釈するのは難しいと思います。

また、単なる問い合わせであれば客の名前と連絡先は不要なのだから、店の「お名前とご連絡先をお願いします」の言葉は、予約を受けたという理解を前提としています。
客としては、それを理解し、単なる問い合わせのつもりであれば、「まだそちらに決めたわけではないので」と断ることもできたでしょう。
そのため、客が店の求めに応じて名前を教えたことは、予約を受けたという店の信頼を強くさせます。
客は、「人数が決まったら連絡する」と店に予約の申込みであると信頼させることを言った後、その信頼を減殺することを言わず、むしろ増強することを言っているわけです。

客としては、候補としていくつかの店を考えており、他の店にも同じような連絡をしているのかもしれません。
しかし、忘年会の時期であることを考えると、複数の店を比較検討するためには、店には、予約日時に他の宴会の予約を断ってもらう(宴会場を確保してもらう)必要があります。
客は店にそれを期待しているわけです。
実際、もし客が人数を決めて店に連絡した際、店に既に他の宴会を入れました、と言われれば不満に思うでしょう。
つまり、客は、上記の遣り取りの際、店に宴会場を確保させるという意味で店を拘束する意図があったわけで、そうであれば、自分も拘束されるべきでしょう。
店を拘束するが自分は拘束されない、というのであれば、民法上の「予約」となり、客が予約完結権を有することになりますが、上記のとおり、なるべくそのように解すべきではないと思います。
そのため、上記の遣り取りを「単なる問い合わせ」と解釈することは適切ではないと思います。
単なる問い合わせであると弁解するなら、「まだそちらに決めたわけではありません。決めたら改めて連絡しますが、その間に他の予約で埋まってしまっても仕方がありません。」などと言って、正式な決定ではなく、宴会場を確保する必要もないと伝える必要があるでしょう(自分も拘束されない代わりに店も拘束しない)。

そのため、上記遣り取りを合理的に解釈すれば、予約(契約)が成立していたと考えることができると思います。

このように考えても、店は他の店に決めた時点で速やかにキャンセルの連絡をすればよいので、客にとって不公平ともならないでしょう。
ある程度キャンセル料が発生するとしても、それは店に宴会場を確保してもらう以上は仕方がないことだと思います。

【問い合わせに過ぎないとする考え】

もっとも、以上は1つの考えに過ぎません。

  1. 「予約可能でしょうか」というのは正に問い合わせである。「予約したいんですけど」とは言っていない。
  2. 人数が確定していないのに契約が成立するのはおかしい。
  3. 「人数が確定したら連絡します」というのは、本当は「他の店と比較検討中であり、そちらに決めたらまた連絡します」という意味であって、店側も推測可能である(推測すべきである)。
  4. 本当に予約するつもりなのだったら、「大丈夫です」と言われた後、「では予約をお願いします」と言っているはずである。
  5. 明確に店に宴会場を確保するよう求めたわけではない。
  6. 名前なども、訊かれたから答えただけであって、「いや、まだそちらに決めたわけではありません」などと普通は言わない。

といった理由で、この事例で契約は成立していないと考える人も多いでしょう(ただし、bとcは理由としては弱く、要は、予約したいと明言していないということに尽きると思います)。

もっとも、契約が成立していないと解しても、契約締結の意思がないのに、店にその意思があると誤解させた、つまり「申込み」ではないのに「申込み」と誤解させたとして、客に不法行為が成立する可能性があります(※2)。

※2 今はこういう言い方をあまりしないかもしれませんが、民法学で「契約締結上の過失」といわれる場面の1つです。ただし、店側にも確認不足などの落ち度があるとして過失相殺される可能性があります。

【トラブルを避けるために】

いずれにせよ、トラブルを避けるためには、客側からすれば予約するつもりがあるのかないのか、店側からすれば予約を受け付けたのかそうでないのか、を明確にしておくことが必要です。

店がホームページやメールで形に残したり、一部前払を求めるのが良いですが、そうできないことも多いでしょう。

そういう場合、トラブルの可能性を低くするため、上記の例では、客としては、「どの店にするかは検討中である。」と断った上で、宴会場をキープしてもらいたいのであれば「明日までに連絡するので、その間キープしてもらいたい」と期限を定め、あるいは、「そちらに決めたら連絡するが、その間に他の予約で埋まってしまっても仕方がない」などキープを求めない旨を伝えるべきでしょう。客としては、希望の日時に場所をキープしてもらうことで、店に機会損失を与えることを理解しておくべきです。

店としては、「仮予約は受けていません。正式な予約でよろしいですか」と客の予約意思を明確にさせるか、「明日の閉店時間までキープしておくので、それまでに正式なご連絡をください。ご連絡がない場合には予約意思がないものとします」などとキープの期限を切るとよいでしょう。

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