家族法をめぐる時代の変遷と最高裁

現在の民法の家族法の部分は、1947年(昭和22年)、日本国憲法制定に伴い、1898年(明治31年)に制定された民法(明治民法)を改正する形で制定されたものです。

明治民法は、家、戸主、家督相続といった考え方に基づくものでした。

新憲法制定に伴う家族法の改正は、新憲法の13条(個人の尊厳)、14条(法の下の平等)、24条(両性の本質的平等)の理念に基づいて行われたものですが、明治民法からほぼそのまま引き継がれた規定も残っています。

1996年(平成8年)には、新憲法の理念に基づき、法務大臣の諮問機関である法制審議会が民法改正要綱を作成しましたが、自民党の一部の強い反対により、法案提出に至らなかったとされています。

ご存じの方も多いと思いますが、近時、明治民法から引き継がれた規定が、個人の尊厳や平等といった新憲法の理念に適合しなくなっているとして、最高裁で違憲判断が示されています。

また、生殖補助医療の発展等により、明治民法制定の際はもちろん、新憲法制定に伴う改正の際にも想定されていなかった問題が生じ、最高裁が判断を示したものもあります。

現在、同性婚を認めないことを理由として、全国の裁判所で国家賠償請求訴訟が提起されています。

ここで、家族法の規定の背景にある思想と時代の変遷とのギャップについて、最高裁がどのような判断を示してきたかを見てみましょう。

【凍結精子による死後懐胎子】

「認知」という言葉はご存じだと思いますが、民法上、父が死亡していても、死亡後3年以内であれば、子が認知を求めることができます(787条。検察官を相手に裁判をします)。

これを死後認知といいますが、認知請求が認められれば、法律上の親子関係が成立します。

死後認知により法律上の親子関係が成立したとしても、父は既に死亡している以上、父が親権者になったり扶養義務を負ったりすることはありませんが、子は父の相続人としての資格を取得することになります。

それでは、夫Aの死亡後、その凍結精子を用いた人工授精により妻BがCを懐胎・出産した場合、死後認知により、Aと子Cとの間に法律上の親子関係を認めることができるでしょうか?

これが問題となった事件があります。

夫Aは大量の放射線治療を受けることになることから、精子を冷凍保存し、妻Bに再婚しないのであればAの子を産んで欲しいと話をし、Aの死後、BはAの両親とも相談の上、冷凍保存されたAの精子を用いて体外受精を行い、Cを懐胎・出産したという事情があります。

松山地裁は認知請求を認めませんでしたが、高松高裁は請求を認めました。

ところが、2006年(平成18年)9月4日、最高裁は、民法は、死後懐胎子と死亡した父との間の親子関係を想定しておらず、死後懐胎子と死亡した父との間に法律上の親子関係における基本的な法律関係が生ずる余地がない(相続人としての資格も認められない)として、死後懐胎子と父との親子関係を認める法律がない以上、Cの認知請求は認められない、としました。

早期の立法的解決が望まれるとの2名の裁判官の意見がありましたが、まだ立法化はされていません。 

【代理母】

夫Aの精子と妻Bの卵子を体外受精させ、受精卵を代理母Cの子宮に移植し、Cが懐胎・出生する場合(代理母のひとつ)、法律上の母は、BとCのいずれでしょうか?

これが問題となったのは、アメリカ(ネバダ州)で、Aの精子とBの卵子による受精卵をアメリカ人女性Cに移植し、Cが懐胎・出産した子について、AとBが、ネバダ州の裁判に基づいて発行された出生証明書を得て、帰国後出生届を提出したところ、Bが出産していないことを理由として、出生届が受理されなかったため、AとBが、東京家裁に出生届の受理の命令を求めた事案です。

東京家裁は、伝統的に採用されてきた分娩者=母とする基準が明確であるなどとしてABの申立てを却下しましたが、東京高裁は、 ABに養育されることが最も子の福祉にかなう、としてABの申立てを認めました。

2017年(平成19年)3月23日、最高裁は、現行民法の解釈としては、出生した子を懐胎し出産した女性をその子の母と解さざるを得ず、ネバダ州の裁判は我が国の身分法秩序の基本原則と相いれない、としてABの申立てを退けました。

この最高裁により、現段階では、Bと子に法律上の母子関係が認められるためには、一旦はAとCの子として出生届をし、その後、Bと子の特別養子縁組をしなければならないことになります。

【非嫡出子の相続分】

法律上の夫婦の間に生まれた子を嫡出子、そうでない子を非嫡出子といいますが、民法(900条4号但書)では、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の2分の1とされていました。

これは、明治民法の規定が、新憲法制定に伴う改正の際に改正されずに維持されたものです。

新憲法制定に伴う改正の際の調査会の審議においては、司法省の幹事から、「正当な婚姻は奨励するが、そうでない関係は極力禁止していかなければならない」とも説明されています。

この点については、学説では、非嫡出子を生まれという自分では何如ともし難い理由により不当に差別するものであって、憲法14条に反するとの見解が有力でした。

この問題は最高裁でも争われましたが、最高裁は、1995年(平成7年)7月5日の判決を始めとして、2009年(平成21年)9月30日の判決に至るまで、合憲判断を続けてきました。

その理由は、相続制度をどのように定めるかは立法府(国会)に委ねられており、民法が法律婚主義を採用している以上、嫡出子の尊重と非嫡出子の保護を図る(つまり、非嫡出子にも相続分を認める(⇒非嫡出子の保護)が、嫡出子とは差を設ける(⇒嫡出子の尊重))という目的には合理的根拠がある、というものでした。

しかし、いずれも、立法後の状況の変化により合理性を失い違憲に至っているとする反対意見が付されており、最高裁内部でも意見が分かれている状況でした。

また、民法改正要綱(1996年)でも、嫡出子と非嫡出子の相続分は同じとされていました。

2009年の最高裁の判断後は、違憲判断を示す下級審も現れていました。

こうした状況の下、2013年(平成25年)9月4日、ついに最高裁は、民法900条4号但書が憲法14条に反すると判断しました(※1)。

これを受けて、2013年(平成25年)12月に民法900条4号但書が改正され、嫡出子と非嫡出子の相続分は同じになりました。

※1 もっとも、従前の判例を変更するものではなく、社会情勢の変遷等から、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されないという考えが確立してきており、遅くともその事件で問題となった相続が始まった平成13年7月当時においては、嫡出子と非嫡出子の相続分を区別する合理的根拠は失われていた、とするものです。合憲とした最高裁の事件で問題となったのは、平成13年7月より前の相続でした。

【性転換夫婦の子】 

「性同一性障害者の性別の利扱いの特例に関する法律」が2008年(平成16年)に施行されました。

これにより、「性同一性障害者」(※2)は、20才以上であること、未婚であること、未成年の子がいないこと等の要件を充たした場合、家庭裁判所に性別の取扱いの変更の審判を求めることができるようになりました。

この審判により、戸籍上の性も変更され、変更後の性別に基づき、結婚もできるようになります。

もっとも、生物学上の女性が男性に性を変更する審判を得て、女性と結婚したとしても、子をもうけようと思えば、第三者である男性から精子の提供を受けるしかありません。

そこで問題となったのが、第三者の精子を利用して妻が懐胎・出産した子が、夫(法律上は男性だが生物学上は女性)の子として認められるか、というものでした。

民法には「嫡出推定」という規定(772条)があり、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定されるのですが、夫が性別取扱変更の審判を受けており、夫と子の間に血縁関係がないことが明らかな場合にまで、この嫡出推定が働くのか、が問題となります。

この場合、戸籍実務では、嫡出推定は働かないとして、出生届の提出を受けても、父の欄に夫の名を記載してくれなかったようです(※3)。 

そこで、戸籍の訂正の許可を求めて家庭裁判所に申立てがされたのですが、東京家裁と東京高裁は、いずれも申立てを却下しました。

ところが、2013年(平成25年)12月10日、最高裁は、「婚姻することを認めながら、他方で、その主要な効果である同条(民法772条)による嫡出の推定についての規定の適用を、妻との性的関係の結果もうけた子であり得ないことを理由に認めないとすることは相当でない」として、申立てを認めました。

これにより戸籍実務の扱いも変更されました。

※2 同法2条により、「生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているもの」と定義されています。

※3 このような扱いをされたのは、戸籍上、夫が性別取扱変更の審判を受けていることが明らかだったからです。
夫は生物学上も男性であるが、夫以外の男性から精子の提供を受けた妻が懐胎・出産した場合には、同じように夫と子の間に血縁関係はありませんが、戸籍実務ではそのまま夫の子として記載されていたようです。

【再婚禁止期間】

上述のとおり、民法には、嫡出推定の規定(772条)があり、①妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定されるのですが、更に②結婚してから200日後に生まれた子、離婚してから300日以内に生まれた子は、妻が婚姻中に懐胎したものと推定されるとされています。

推定が重複する期間に子が生まれると、裁判で前夫と後夫のどちらの子かを決めなければならなくなるので、これを避ける手立てが必要です。

そこで、民法では、離婚したり婚姻が取り消された女性は、離婚等をしてから6ヶ月経過しなければ再婚できないとされていました(733条1項)。

これも、非嫡出子の相続分の規定と同様、明治民法の規定が、新憲法制定に伴う改正の際に改正されずに維持されたものです。

しかし、嫡出推定の重複を避けるためであれば、再婚禁止期間は100日(300日-200日)で十分です。

この点、明治民法の起草者は、再婚禁止期間を嫡出推定が重複することを避けるために必要な期間よりも長くする理由(立法目的)について、後夫が妻となるべき女性が前夫の子を懐胎していることを知らないで婚姻することを防ぐ(6ヶ月あれば、外見から妊娠しているかどうかわかるので、後夫は前夫の子を懐胎している女性と婚姻することを避けることができる)点に求めていたようです。

しかし、最高裁は、1995年(平成7年)12月5日の判決で、再婚禁止期間の趣旨は、推定の重複を避け、父子関係をめぐる紛争を防ぐ点にあると明言しています。

学説でも、再婚禁止期間を合理的に説明できる理由は、嫡出推定の重複防止にあると解されていました(自分以外の男性の子を懐胎している女性と結婚するリスクについては、初婚にも当てはまるし、離婚したり結婚を錯誤により無効とすれば足りると言われていました。女性が懐胎しているかどうかも、検査技術の発達により容易に判明すると指摘されていました。)。

そのため、法律家の間では、再婚禁止期間の趣旨が嫡出推定の重複防止にある以上、6ヶ月の再婚禁止期間を正当化することは困難であり、違憲性が強いと考えられていました。

民法改正要綱(1996年)でも、再婚禁止期間は100日とされていました。

そうした中、再婚禁止期間の定めにより婚姻を不当に遅らせられた等として国家賠償請求訴訟が提起され、最高裁は、2015年(平成27年)12月16日の判決で、再婚禁止期間のうち100日を超える分を違憲と判断しました。

これを受けて、2016年(平成28年)に民法733条1項が改正され、再婚禁止期間は100日に短縮されました。

【夫婦同氏制】

民法750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏(名字)を称する」としています(夫婦同氏制)。

これも明治民法の規定が維持されたものです。

この規定により、婚姻届には、夫と妻のどちらの氏を称するか選択する欄があり、これが記入されていないと婚姻届が受理されません。

法律上は、夫の氏を称することが義務づけられているわけではないため、民法750条自体が男女を差別しているわけではありません。

しかし、実際には、96%以上の夫婦が夫の氏を称しているとされており、氏の変更により、それまで築いた社会的地位やアイデンティティが損なわれるといった(専ら妻の)不利益が問題とされていたところでした。

民法改正要綱(1996年)では、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする」として、選択的夫婦別姓制度が定められていました(自民党の一部は、要綱のこの部分に強く反対したと言われています)。

最高裁は、2015年(平成27年)12月16日(再婚禁止期間の判決と同じ日)に、民法750条が憲法に違反しないとの判断を示しました。
なお、事前に、再婚禁止期間と夫婦同氏制について憲法判断が示されることはわかっており、法律家の多くは、前者は違憲、後者は合憲と予測していたと思います。

最高裁は、以下の様に判断しました。

憲法13条違反(個人の尊厳)について

婚姻の際に氏の変更を強制されない権利は憲法上の権利として保障されていない

憲法14条違反(法の下の平等)について

民法750条の規定自体は女性を差別しているものではなく、憲法14条1項の平等原則に反しない

憲法24条(婚姻の自由)について
  • 夫婦同氏制は、明治31年施行の明治民法で採用され、定着してきた

  • 家族という基礎的な集団単位の呼称を定めることにも合理性がある

  • 夫婦同氏により、家族という1つの集団の構成員であることを対外的に公示する機能を有する

  • 家族を構成する個人が、その一員であることを実感することに意義を見出す考え方もある

  • 子が両親と同一の氏を称することができる

  • 夫婦同氏制自体は男女差別をするものでなく、夫婦がどちらの氏を称するかは協議による自由な選択に委ねられている

  • 夫婦同氏制は、婚姻前の通称を使用することを許さないものではない(通称使用により、不利益は緩和される)

しかし、15名の裁判官のうち、5名(3名の女性裁判官含む)が民法750条が憲法24条に反するとの意見を述べています。

非嫡出子の相続分の規定が、時代の変遷により合理性を維持できなくなったとされたように、将来的には夫婦同氏制も違憲とされる時代が来るかもしれません。

【同性婚】

はっきりと民法に書かれているわけではありませんが、民法上、同性間での婚姻は認められていないと解されています。

憲法上は、24条1項で「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」するとされているので、憲法上も同性婚は想定されていないと言われることもあります。

現在、同性婚を認める法律を制定しないこと(立法不作為)によって精神的苦痛を被ったとして、全国(札幌、東京、大阪、名古屋、福岡)の裁判所で、国家賠償請求訴訟が提起されているようです。

まだ地裁判決も出されていない状況ですが、最高裁の判断が示されることになるのでしょう。

私としては、国会の裁量を尊重した判断になるだろうと予測はしていますが、最高裁の判断が注目されるところです。

【婚姻適齢】

民法では、婚姻できる年齢(婚姻適齢)は、男性が18才、女性が16才とされています(731条)。

明治民法では男性17才、女性15才とされていました。
新憲法制定に伴う民法改正でも、男女の違いは維持されました。
女性の方が成熟が早いとか、家庭の責任者として夫にはより高い成熟が必要などと説明されます。

しかし、現代において、上記の理由により男女の違いを正当化することはできず、男女で扱いを異にする合理的理由を見出すことはできないでしょう。

民法改正要綱では男女とも18才とされていました。

そのため、民法731条は違憲と言わざるを得ないと思いますが、最高裁の判例はありません。

2018年(平成30年)の改正により、婚姻適齢は男女とも18才になりました。2022年(令和4年)4月1日に施行されます。

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