子どもの自転車事故と親の責任

【自転車保険】

最近、自転車保険(自転車の事故をカバーできる保険)の加入率が上がっているそうです。

自転車事故を目的とする保険もありますが、自動車保険や火災保険などの個人賠償責任保険特約にも自転車保険が付帯されています。PTAや学校が窓口となる団体保険、自転車の車両に付帯したTSマーク自転車保険などもあります。

富山県では、2019年3月から条例で自転車保険への加入の努力義務が定められました。

富山県自転車活用推進条例
14条「自転車を利用する者及び自転車の貸付を業とする者その他自転車を事業の用に供する者は、自転車の利用に係る事故により生じた損害を賠償するための保険又は共済(…)への加入に努めるものとする。」

au損保の調査(2020年1月)では、自転車保険(個人賠償責任保険特約等を含む)の加入率は、全国では57.3%、富山県は50.6%だそうです。やはり、義務化されている自治体の加入率は、富山県を上回っています。

最初に自転車保険の義務化条例を制定したのは兵庫県でした(2015年)。

神戸地裁の2013年の判決がきっかけとなっているようです。

この判決は、当時11才の少年が、自転車で走行中、前から来た歩行者と正面衝突した事案で、少年の親に計9000万円以上の損害賠償を命じたものです。

金額が大きいため、全国ニュースになったので覚えておられる方も多いと思います。

【親の監督責任】

子どもに自分の行為により法的な責任が発生するかどうかを判断する能力(責任能力)があるか否かにより根拠条文は変わりますが、いずれにせよ、親が監督義務を果たしていなければ、親が損害賠償責任を負うことになります(※1)。

責任能力の有無は、裁判例では、12才程度が目安とされているようです。

※1 子に責任能力がない場合には、子自身は損害賠償責任を負いませんが、民法に特則(714条)があり、監督義務者である親権者は、監督義務を果たしたことを立証しなければ、監督責任を免れないことになります。上記の神戸地裁の例では、子が11才で責任能力がないとされ、親に714条の監督義務者責任が認められました。
他方、子に責任能力がある場合、上記の特則の適用はありません。しかし、不法行為の原則(709条)に戻って、被害者の方で親が監督義務を怠ったことを立証できれば、親が責任を負うことになります。

【どのような場合に親の責任が認められるか】

訴訟では、親は、日常的に自転車の走行方法や交通ルールについて指導しており、監督義務を果たしていたと主張しますが、この主張が認められることは、ほとんどありません。
厳密に言うと、裁判所が考える監督義務のとおりに注意・指導をしていたとしても事故を回避できたかどうかは分からない(監督義務違反と事故との間に因果関係が認められない)、ということも十分あり得るのですが、裁判所はこのような理由で親の責任を否定することには消極的です。

例えば、上記の神戸地裁の例では、車道と歩道の区別がなく、事故現場は路側帯が切れている場所でしたが、自転車から見ると下り坂で、自転車の速度は時速20~30㎞でした。親は、日常的にスピードを出さないことなどの指導をしていた他、ヘルメットを着用するよう指導していたと主張していたのですが、事故当時、少年(責任能力なし)はヘルメットを着用していませんでした。そのため、下り坂を時速20~30㎞で走行していた点やヘルメットを着用していなかった点などからすると、親の指導や注意は奏功していなかったのであり、指導監督は不十分だったとされています(714条で責任が認められました)。

それ以外に、以下の裁判例があります。

12才の子が、塾帰りに、友人らと、遅れて出発する友人(鬼役)に追いつかれないように目的地に到着する「鬼ごっこ」と称する遊びをしながら、通常よりも速い速度で走行し、信号機のない交差点にさしかかり、相手方自転車に衝突した事案

親は、①子に自転車の安全運転の指導・教育・監督をしてきた、②子は自転車に乗り始めてから7年弱の間、交通事故歴はなかった、などと主張しました。

しかし、裁判所は、塾からの帰宅は夜間になること、塾から自宅への道は信号のない交差点や見通しの悪い交差点が含まれていることなどからすると、親としては、塾から帰宅する際の経路、その間にどのようにして自転車を運転しているかを具体的に把握し、走行経路、運転方法等を具体的に指導すべきであったが、それをしておらず、「鬼ごっこ」をしていたことも把握していなかった、として、親の監督義務違反(709条)を認めました(2010年東京地裁)。

8才の子が下り坂となっている歩道を自転車で走行中、速度を落としきれずに歩行者に衝突した事案

親は、①自転車で走行する際には交通ルールを守るよう注意していた、②自転車に1人で乗ることを禁止し、鍵も親が保管していた、と主張しました。

しかし、裁判所は、親の注意は抽象的なものにとどまっており、鍵についても子が一度無断で鍵を持ち出して自転車を運転したことがあるのに保管方法を変えておらず、教育的措置の面も鍵の管理の面も不十分だったと判断し、親の監督義務違反(714条)を認めました(2014年福岡地裁)。

13才の子が友人と自転車で併走(子は歩道、友人は車道を走行)していたところ、子が前方の歩行者に背後から衝突した事案

親は、普段から、スピードを出さない、ふざけて運転しない、前を見て運転する、などと注意していたと主張しました。

しかし、裁判所は、自転車の歩道走行は例外的であること、歩道上は歩行者が絶対的な優先権があること、歩行者の存在を認めたときにはいつでも停止できるような低速度で走行すべきことを教育しておくべきであったが、これを怠ったから事故が生じた、として、親の監督義務違反(709条)を認めました(2015年大阪地裁。※2)。

※2 裁判所は、「単純な不注意による前方不注視や安全確認義務違反を原因とする事故であれば、指導の有無にかかわらず一定程度不可避的に生じるものといえるが、本件の子の過失はそれに尽きるものではない」とも判示しています。単純な不注意のような一定程度不可避的に生じる過失であれば親の責任が否定されうることを示唆するもので、注目されます。

13才の子が塾帰りに自転車で幹線道路を横断し、オートバイが自転車に衝突した事案

親は、①上記道路を横断する際は、事故現場から約70メートル離れた信号機のある交差点を横断するよう繰り返し注意していた、②家族で上記道路を横断する際は、上記交差点を渡っていたので、子が左右を十分確認しないで横断したことは予見できなかった、などと主張しました。

しかし、裁判所は、①左右を十分確認しないでこの幹線道路を横断することは単なる不注意ではなく意図的である、②子は、弟が一人で留守番をしていたから事故当日に限って事故現場付近を横断したと供述しましたが、他方、弟が一人で留守番をするのはいつものことであるとも供述するので、子の供述は信用できない(つまり、子は、親の注意に従わず、日常的に事故現場付近を横断していた疑いがある)として、親の監督義務違反(714条)を認めました(2017年大阪地裁)。

 

親の責任を否定した裁判例として、2016年の大阪地裁があります。

歩道よりに停められたトラックから荷物を受け取って歩道を横断中の被害者に、歩道を自転車で直進していた子(16才)が衝突したという事案

裁判所は、子の過失は前方不注視ないし徐行義務違反であり、これらの過失は指導・監督の有無にかかわらず一定程度不可避的に生ずるものであり、子も16才(責任能力あり)であったことから、親の監督義務違反は認められないし、仮に認められるとしてもその違反と事故との間に因果関係は認められない、として、親の責任(709条)を否定しました。

しかし、歩道の徐行義務違反は意図的であって、「一定程度不可避的に生ずる」とは言えないはずであるし、子が16才であるとしても親と同居する高校生にすぎないわけですから、この判決は、多くの裁判例の傾向から外れるものだと思います。被害者としても納得できないでしょう。

実際、この判決は控訴されたようで、おそらく和解で解決したものと思われます。

【自転車保険の勧め】

私が以前住んでいた札幌では、冬が長い、公共交通機関が発達している、学校が多く家と学校が近い、などからか、自転車に乗っている子どもはそれほど多くありませんでした。

富山県では通学や友人と出かける際に自転車を利用する子どもが多いでしょうし、7月にも富山市内で中学生運転の自転車が登校中の児童2人に衝突した事故(児童1人は骨折)があったようです。

裁判例の傾向からすると、親の責任が否定されることはほとんど考えられませんし、神戸地裁の例のように、かなり高額の賠償義務が認められる場合もあります。

今一度、自転車保険に加入しているか、確認してみるとよいでしょう。

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