面会交流についての考え方

離婚する際、夫婦に未成年の子がいれば、いずれを親権者(監護者)とするか定める必要があります。

その上で、多くの場合は子と別居する親(別居親・非監護親)の希望により、別居親と子との面会(面会交流)について協議が行われます。

2012年(平成24年)の民法改正により、面会交流の協議に際しては、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」と明記されました(民法766条1項)。

協議が調わない場合には、通常は別居親が子と同居する親(同居親・監護親)を相手として家庭裁判所に調停を申し立てることになります。調停が成立しない場合には、家庭裁判所が審判という形で判断を示します。

それでは、面会交流について、調停や審判は、どのように運営されるのでしょうか?

【原則実施論】

2008年(平成20年)前後から、東京家裁を中心に、次のような考え方が裁判所実務に現れるようになり、2012年(平成24年)の東京家裁の裁判官らによる論文(以下「旧論文」)がその普及に大きく寄与したとされています(※1)。

別居親と子との面会交流は基本的に子の健全な育成に有益なものであり、その実施によりかえって子の福祉が害されるおそれがあるといえる特段の事情がある場合を除き、面会交流を認めるべきである

旧論文では、「特段の事情」として、次の類型が挙げられていました。

  • 連れ去り
     非同居親が面会交流の際に子を連れ去るおそれが高い場合
  • 子の虐待
     非同居親が、過去に子に対して暴力を振るうなど虐待を加えていた事実があり、子が現に非同居親に対して恐怖心を抱いている場合
     面会交流の際に非同居親が子を虐待するおそれがある場合
  • 同居親に対するDV
     子が精神的ダメージを受けており、現在もそのダメージから回復できていない場合
     同居親がPTSDを発症しており、面会交流を行うと病状が悪化して子に対して悪影響を及ぼす場合

「特段の事情」とは、法律的には、極めて例外で、それを立証するハードルが高い場合に使われる表現で、通常認められることはありません。こうした「特段の事情」が認められない限り、直接交流の実施に向けて調整する、という運用が一部でなされていたのです。(直接交流とは、直接子と非監護親が面会する方法をいい、手紙や写真等のやりとりで交流する方法を間接交流と言います)

事件の簡易迅速処理に資するという点で裁判所にメリットがある、との指摘もされています。

もしかすると、実際に、調停委員や裁判官(調停官)から、上記のような運用の説明を受けた方もおられるかもしれません。

※1 「面会交流が争点となる調停事件の実情及び心裡の在り方-民法766条の改正を踏まえて-」家庭裁判所月報64巻7号1頁以下

【原則実施論の見直し?】

確かに、面会交流が適切に実施されれば、どちらの親からも愛されているという安心感を得、父母の不和による別居に伴う喪失感やこれによる不安定な精神状態を回復させることができ、子の健全な育成に資するでしょう。そのため、子と非監護親の関係が良好であったにもかかわらず、監護親が単に非監護親への悪感情を理由として面会交流を拒否している場合には、監護親に面会交流の意義を理解してもらうことは必要でしょう。

しかし、だからといって、原則として面会交流は子の健全な育成に資する、というのは、論理の飛躍があります。(事案によるとしかいいようがないでしょう)

また、原則実施論からすれば、裁判所側が、原則として面会交流を認めることになっており、本件では面会交流を否定する特段の事情は認められない、調停が成立しなければ面会交流を認める審判をすることになる、といった説明をし、あるいは、そういったつもりではなくても同居親がそのように理解し、その結果、その事案での面会交流の支障が解消されず、同居親が納得しない状態のままで調停や審判がなされることにもなり得ます。こうした場合には、往々にして調停や審判のとおりに面会交流は実施されませんし、結局子の健全な育成に資することにもならない、といったことにもなります。

そこで、2020年(令和2年)6月、「旧論文が誤解されて原則実施論として独り歩きし、同居親に対する十分な配慮を欠いた調停運営が行われたことがあった」として、東京家裁の裁判官らから、新たなモデルを提案する論文(以下「新論文」)が発表されました。(※2)

簡単にまとめるのは難しいのですが、ものすごくかいつまんで言うと、次のような提案がされています。

  1. 調停の運営に際しては、ニュートラル・フラットな立場(同居親および別居親のいずれの側にも偏ることなく、先入観を持つことなく、ひたすら子の利益を最優先に考慮する立場)で臨む
  2. 「面会交流を実施することにより子の利益に反する事情があるかどうか」について、当事者双方から子をめぐる一切の事情を丁寧に聴取しながら慎重に検討する(※3)。
    この過程では、①主張・背景事情の把握、②課題の把握・当事者との共有、③課題の解決に向けた働き掛け・調整、④働き掛け・調整の結果の分析・評価等の過程が円環的に行われる。
  3. 面会交流が子の利益に反する事情があるといえない場合には、面会交流の具体的な内容の検討・調整に進む。

今後は、新論文に沿って面会交流の調停が運営されることになるでしょう。

原則実施論の場合よりも手続に時間がかかることになるかもしれませんが、原則実施論を振りかざして同居親への配慮に欠けた調停運営が改められるとともに、真に子の利益になる解決がなされることが期待されます。

例えば、近時の書籍において、現役裁判官から、①原則実施論の下では、子の連れ去りのおそれが高いと判断されるべき事情がある場合であっても、第三者機関を関与させるなどの工夫により面会交流を実施的できないか検討する、とされていたが、現在は子の利益を最優先して連れ去りのおそれが高い場合には面会交流を拒否すべきである、②原則実施論の下では、子の年齢にもよるが、子が面会交流を拒否する意向を示しているときは、それが真意であるかを慎重に判断し、監護親に対し、子の拒絶がなぜ真意とはいえないかを粘り強く説明する、などとされていたが、これは子の意向を否定するものであり、子が自らの意思で面会を拒否する意向を示しているのであれば、それが監護親の意向の影響を受けたものであるとしても、それを真意でないなどとして軽視してはならない、という意見が述べられています(※4)。

現役裁判官からこうした意見が述べられているのであれば、新論文以降の家裁実務では、「原則実施論」で運用されていた頃より、子の利益に反する事情が認められやすくなっているのかもしれません。

※2 「東京家庭裁判所における面会交流調停事件の運営方針の確認及び新たな運営モデルについて」家庭と法の裁判26巻129頁以下。確かに、この論文以前から、「原則はどちらか」という問題ではなく、「あくまで子の利益になるかという観点から、個別の判断だろう。原則論を振りかざして直ちに結論を出すような問題ではない」と述べる裁判官もいました。これに対しては、少なくとも平成25年頃から平成29年頃にかけて、原則実施論が全国の家裁実務の大勢であったとの現役裁判官の指摘があります(※4の文献139頁)。
※3 旧論文は誤解された、といいながら、新論文では、「面会交流を実施することが子の利益に資する場合」ではなく、「面会交流を実施することにより子の利益に反する事情があるといえない場合」に面会交流の調整に進むとされているので、原則として面会交流を実施するというスタンスに変わりはないように見受けられます。この点は、積極的に子の福祉に合致することが立証されない限り面会交流の実施は認められないという見解からの批判があります。もっとも、旧論文にあった「特段の事情」という表現が消えたのは、子の利益に反する事情の有無を慎重に審理すべきというメッセージではあるのでしょう。
※4 『離婚事件における判断基準と弁護士の留意点』138~145頁

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