親の責任と消滅時効

以前のブログ「子どもの自転車事故と親の責任」において、子どもが自転車事故の加害者となった場合、親に損害賠償責任が認められる可能性があることを書きました。

最近、これに関して、注意しなければならない判決を見つけました。

名古屋地判2021(令和3)年12月15日です。

事案は、加害者(事故当時10才)の運転する自転車が被害者(歩行者)に衝突し負傷させた事案で、被害者(原告)が、加害者が責任無能力であることを前提として、親に損害賠償を求めた(根拠条文は民法709条ではなく714条1項)、というものです。

裁判所は、次のように述べて、親の責任について消滅時効の援用を認め、被害者の請求を棄却しました。加害者である子の債務の消滅時効と親の債務の消滅時効は、別々に進行する、という前提です。

  • 被害者代理人の加害者代理人に対する催告書の送付は、加害者の親に対する関係では時効停止事由とはならない。
  • 加害者代理人の受任通知は、加害者の親の債務承認と解することはできない。
  • 加害者の親による消滅時効の援用は信義則上許されないとまではいえない

【時効の中断(更新)と停止(完成猶予)】

少し解説をしておきます。ある程度知識がある方は読み飛ばしてください。

今回は、2020年4月1日より前の事故なので、一部改正前の民法が適用されています。そのため、以下は、改正前の民法を前提とする解説となるので、ご注意ください。

今回は消滅時効が問題になっています。消滅時効は、一定期間権利が行使されない状態が継続した場合に権利が消滅する制度です。取得時効は、逆に、ある者が権利者であるかのような状態が継続した場合に、その者に権利の取得が認められる制度をいいます。

取得時効や消滅時効により権利の取得・消滅が認められるためには、まず、共通して、時効の完成が必要です。時効が完成したといえるためには、①一定期間(時効期間)の経過と②時効の完成を妨げる事由が存在しないこと、が必要です。改正前、②には中断停止がありました。民法改正後は更新完成猶予という言い方に変わり、内容も少し変わっていますが、本件では、改正法施行前の出来事なので、中断や停止の有無が問題となっています。

中断(更新)とは、時効の進行がリセット(更新)されることをいいます。典型例は、訴訟提起や債務者が自身の債務を認めること(承認)です(改正前147条、改正後147条、152条)。中断があれば、改めて0から時効が進行します。本件では承認の有無が争点になりました。

停止(完成猶予)とは、時効は進行し続けるものの、一定期間が経過するまで時効の完成が先延ばし(権利者からすれば猶予)されることをいいます。例えば、時効が完成する6ヶ月前に未成年者等に法定代理人がいないときは、未成年者が時効の中断措置を取ることができないので、成年になった時または法定代理人が就いた時から6ヶ月間、時効の完成が先延ばしされます(改正前後158条)。

中間的なものとして、催告があります。催告とは、裁判外での請求をいい、内容証明郵便での請求が典型です。改正前は、催告は中断事由の一つとされていましたが、催告後6ヶ月以内に訴訟提起等の中断措置を取らなければ中断がなかったことになる、とされていました(改正前153条)。実質は停止事由のようなものだったのですが、改正後は、明確に完成猶予事由に位置付けられました(改正後150条)。本件では催告の有無が争点となりました。

【事案の内容】

本件は、以下の経過をたどったようです。
子をA、その親をB、Aの代理人をCとします。Bは世帯全員を被保険者とする個人賠償責任保険に加入していたため、保険会社も登場します。

簡単にまとめると、原告代理人は、保険会社や子Aの代理人である弁護士Cと示談交渉をしていたが、症状固定から3年が経過してから、Aではなく親Bを被告として訴訟提起したところ、Bが消滅時効の援用をし、裁判所がこれを認めた、というものです。

  1. 2015年8月、本件事故。
  2. 2016年3月頃、原告代理人は保険会社と交渉を始めた。交渉中に保険会社が原告代理人に送付した書類には、責任を負うのがAかBかは記載されていなかった。
  3. 2016年6月、症状固定。(ここから消滅時効が進行します。時効期間は改正前民法が適用されるので3年です。)
  4. 2019年4月、Cから、「A代理人」として、原告代理人に受任通知が送付された。(判決では、この受任通知はAの債務承認に当たるとされています。そうすると、これによりAの債務が中断し、Aの債務の時効は2022年4月まで完成しないことになります。)
  5. 2019年6月(Bの債務の消滅時効完成6日前!)、原告代理人が、「A代理人」であるCに催告書を送付した。
  6. 2019年8月、Cから原告代理人に対し、訴訟準備の進捗を問う文書が送付された。この文書では、Cの肩書きが「A代理人」とされている。
  7. 2019年12月(上記5.の催告から6ヶ月以内)、原告は、(なぜかAではなく)Bを被告として訴訟提起した。
  8. 2020年3月、Bは、消滅時効を援用した。
  9. 2021年12月、Bに対する請求棄却の判決。

【判決の内容】

上記の訴訟では、次の点が問題になったようです。

  1. Cに対する催告(上記5.)によりBの債務の時効が停止するか
  2. Cによる受任通知(上記4.)によりBが債務を承認したといえるか
  3. Bの消滅時効の援用(上記8.)が信義則に反するか

裁判所は、いずれも否定し、Bに対する請求を棄却しました。

ⅰとⅱについては、催告書ではCをA代理人としているし、Cも一貫してA代理人として行動しており、原告代理人とA代理人との間でBが責任を負うことを前提として交渉はされていない、ⅲについては、原告代理人にとり、念のためBの責任も追及したり責任主体の明確化を求めることは容易だった、というのが理由です。

【気を付けるべきこと】

判決によれば、原告代理人としては、例えば、遅くともCから受任通知が送付された時点で、Cに対し、Bの代理人になっていないことを確認した上、念のため、Bに対してもその監督義務違反を追及する催告書を送付すべきだった、ということになります。

また、被告の選択の問題もありそうです。原告代理人としては、交渉段階でAが責任を認めており(受任通知)、時効完成前にAの代理人であるCに催告をしているのだから、訴訟でもAを被告とすれば良かったように思います(何か事情があるのかもしれませんが)。Aは責任能力を争わず、裁判所もわざわざそれを否定することもしなかったかもしれません。

なお、2019年4月のCの受任通知による債務承認により、Aの債務の時効は中断し、Aの債務の時効の完成は2022年4月になっています。改正民法の施行日(2020年4月1日)には時効が完成していなかったことになるので、改正後民法724条の2が適用され、時効期間は3年ではなく5年になると思われます(附則35条2項)。改正後民法724条の2により、人損事故の場合の時効期間が3年から5年に変更されているのです(※1)。そのため、Aの債務の時効が完成するのは、債務承認による中断から5年後である2024年4月になりそうです。それまで被害者は改めてAを訴えることもできます。どうなったのか気になるところです。

依頼者の権利を時効に掛けてしまうことは、弁護過誤の典型です(事情がわからないので、本件の原告代理人に弁護過誤が認められるという趣旨ではありません)。

加害者が未成年で親の監督義務違反も問題となる場合には、双方に対して時効中断措置が取られているか、注意する必要があります。

また、どのような事情があれ、本来の時効期間が経過する前に訴訟提起した方が安全といえます。

※1 人身事故であっても、物損(車の修理費など)については、時効期間が3年のままなので、注意が必要です。

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