建物明渡しの強制執行と自力救済2

以前のブログで、一定の場合には、保証会社は、賃借人が明示的に異議を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなることができる、とする賃借人と保証会社との契約の条項について、消費者契約法に反しないとする大阪高裁判決(2021.3.5)を紹介しました。

大阪高裁は、以下のように判示していました。

  • 本条項は、賃借人が賃借物件の使用を終了してその賃借物件に対する占有権が消滅しているものと認められる場合において、保証会社に明渡しがあったとみなす権限を付与する規定であり、賃借人の占有権が消滅していない場合に自力救済を認める趣旨ではない。
  • 以下の4要件が満たされる場合は、賃借人は、通常、賃貸借契約の解消を希望しており、残置物についても所有権を放棄する意思を有していると考えられ、本条項による不利益は大きくない、むしろ、残置物を処分する費用や賃料等の更なる支払義務を免れるという利益を得ることができる。
    1. 賃借人が賃料等の支払いを2か月以上怠ったこと
    2. 保証会社が合理的な手段を尽くしても賃借人本人と連絡が取れない状況にあること
    3. 電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないと認められること
    4. 本件建物を再び占有使用しない賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存すること
  • 賃貸人としても、本条項により、訴訟提起や強制執行という負担を免れ、保証会社も賃料等の更なる支払義務を免れるという利益を得る。
  • したがって、本条項は、信義則に反して賃借人の利益を一方的に害するものとはいえず、消費者契約法に反しない。

近時、これについて最高裁の判決がありました(2022.12.12)。

最高裁は、以下のように述べて、本条項を消費者契約法に反して無効と判断しました。

  • 本条項は、賃貸借契約が終了している場合だけでなく、終了していない場合においても4要件を満たすときは、賃借人が明示的に異議を述べない限り、保証会社が本件建物の明け渡しがあったものとみなすことができる旨を定めたものと解されるところ、そうすると、賃借人は、本件建物の明渡義務を負っていないのに、賃貸人が賃借人に対して明渡請求権を有し、これが法律に定める手続によることなく実現されたのと同様の状態に置かれることになり、著しく不当である。
  • 4要件の④は不明確で、賃借人はどのような場合に本条項の適用があるか的確に判断できず、不利益を被るおそれがある。
  • 賃借人が明示的に異議を述べた場合には保証会社が本件建物の明渡しがあったとみなすことができないものとされるが、賃借人が異議を述べる機会が確保されているわけではないから、賃借人の不利益を回避する手段として十分でない。

実際のところ、本条項が適用される場面は極めて限定されており、その場合に賃借人が不利益を被ることは想定できませんし、他方で、賃貸人や保証会社は大きな利益を得ることになりますが、最高裁の判断が出た以上は、保証会社は、今後、本条項を用いることはできなくなります。

賃貸人や保証会社にとって、賃借人が賃料を滞納して行方不明・連絡不能になることは、大きな不利益となります。

今後の賃貸人・保証会社の対応が気になるところです。

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